体験したことの”一部”または”全部”を忘れるかがポイント
今回は、今や国民病となった認知症の検査について紹介します。
これまた、先週からスタートした「俺の家の話」というドラマ関連になるのですが、
ドラマでも西田敏行演じる人間国宝の観山寿三郎が認知症のスクリーニング検査を受けて、野菜の名前を思い出せないなんてシーンがありましたね。
ちなみに第二話では、野菜でなく動物に変わってましたね(笑)
医師国家試験問題にチャレンジ!
いつも通り、まずは認知症に関係する医師国家試験を解いてみましょう。
医師国家試験問題 第111回C23
84歳の男性。物忘れを主訴に家族に連れられて来院した。約半年前から物忘れを自覚していた。最近になり認知症の妻の服薬内容をたびたび間違え、十分に管理できなくなっており、心配した隣町に住む長女に連れられて妻とともに受診した。普段は妻と2人暮らしで、妻の定期受診の際は診療所まで車を運転している。この患者の認知機能を評価するのに適切な問いかけはどれか。
a 「よく眠れますか」
b 「片足で立ってください」
c 「夜トイレに何回行きますか」
d 「100から7を順番に引いてください」
e 「最近死にたいと思ったことはありませんか」
正解はこちらをタップ
d 「100から7を順番に引いてください」
85歳以上では2人に1人が認知症
認知症は高齢化が進む日本では急激に増加しています。
2012年の調査になりますが、
65歳以上で7人に1人、
85歳以上では2人に1人
が認知症であるということがわかっています。
ちなみに認知症の医学的な定義は、
いったん正常に発達した「記憶」「学習」「判断」「計画」といった脳の知的機能が、後天的な脳の異常によって持続性に低下し、日常・社会生活に支障をきたす状態。
とされます。
この脳の異常というのがポイントですね。
認知症は細かく分けるといくつか種類があるのですが、
アルツハイマー型認知症では脳が萎縮する
アルツハイマー型認知症では、脳の海馬(下の画像右の赤丸で囲ったあたり)が萎縮したり、脳が小さくなり、脳溝(脳と頭蓋骨の間の隙間)が大きくなるのが特徴です。
上の画像はインターネットで公開されている医師国家試験問題から引用したものですが、左のMRIでは若い患者さんの脳のMRIなので、脳のシワとシワの間の隙間が狭いですよね。
一方で、右の認知症患者のMRIでは脳溝(脳と脳の間の隙間)が大きくなっているのがわかりますね。
ちなみに、”脳が小さくなる”と言われると不安に感じるかもしれませんが、誰しも年をとるとだんだん加齢により脳は小さくなります。
ですので、それ自体は生物の宿命ですので、仕方ないことですよね。
ただ、認知症では特に海馬という記憶を司る部分が強く萎縮するため、記憶力が低下すると言われています。
加齢による物忘れと認知症の違いは?
年を取れば、「人の名前を思い出せない」など年相応の「物忘れ」が見られるようになります。
では加齢による物忘れと認知症は何が違うのでしょうか?
加齢による物忘れは、体験の一部を忘れる!
加齢による物忘れの場合、「体験したことの一部だけ忘れる」というのがポイントです。
例えば、食事を例に挙げると、加齢による物忘れであれば、
お昼ご飯を食べたことは覚えているが、何を食べたか思い出せない
⇒「あれ、昨日の夜ごはんって何食べたっけ」という感じです。
また、加齢による物忘れの場合、自分で物忘れをしているという自覚があります(病識がある)。
認知症では、体験したこと全体を忘れる!
一方、認知症では「体験したことの全体」を忘れてしまいます。
例えば先程の昼食を例に挙げると、認知症では、
お昼ご飯を食べたこと自体を忘れる
という感じです。
よく認知症患者さんのエピソードで、1時間前にお昼ご飯を食べたばかりなのに、「お昼ご飯を食べたこと自体を忘れて、再び昼食を食べようとする」といったものがありますよね。
また認知症の場合は、物忘れをしている自覚がないというのもポイントです(病識がない)。
どうやって認知症の診断をするのか?
認知症と確定診断をするためには頭のCT検査をはじめ、様々な検査をする必要があります。
ただ、物忘れの患者さん全員にいちいち画像検査をしていたら、時間も費用もバカにならないので、実際にはまずスクリーニング検査といって簡易的な検査をします。
(ちなみに、CT検査は3割負担でも約5000円かかります(^^;))
代表的なものが、MMSE(Mini-Mental State Examinaton)や改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)と呼ばれるものがあります。
手元にある長谷川式を一部撮影しましたので、雰囲気を掴んでいただけると幸いです。
長谷川式は20点以下、MMSEは23点以下にて認知症を疑うと定義されています。
興味があればインターネット上にフルテキストが掲載されているので一度見てみてください!(^^)!
ドラマ「俺の家の話」で聞かれてたのは遅延再生と言葉の流暢性
MMSEや長谷川式といったスクリーニング検査においては、見当識(自分の名前や生年月日など)・言葉の記銘・計算・逆唱・言葉の遅延再生など様々な認知機能をチェックしているのですが、
ドラマ「俺の家の話」の中で聞かれていたのは、遅延再生と言葉の流長さです。
遅延再生とは、「覚えた事柄を一定時間経過後に思い出す」というものです。
ドラマの中では、
- まずカードに数字を書いて、覚えてもらう
- 次に知っている野菜を言ってもらう
- その後、最初に書いた数字を思い出して言ってもらう
といった手順で遅延再生ができるかをチェックしていましたね。
実際の長谷川式では「桜」、「猫」、「電車」という三つのキーワードを一旦覚えてもらい、しばらく別の項目の検査をした後に、「桜」、「猫」、「電車」という三つのキーワードを言えるかをチェックします。
ドラマでなぜ「知ってる野菜」を言わせたのか?
言葉の流長性をチェックするために、ドラマでは知っている野菜を挙げさせていました。
第二話では野菜が動物に変わっていましたし、記憶力を測定できれば良いので、扱うテーマは正直なんでも良いんですよね(^^;)
ただ、長谷川式の9番目の質問が「知っている野菜の名前をできるだけ多くいってください」というものなので、ドラマでも野菜を言わせていたのかなーと思います。
ちなみに、この9番目の質問がなかなか厳しくて
- 0~5個以内なら0点
- 6個で1点、7個で2点、8個で3点、9個で4点、10個で5点
となっており、5個以下なら0個でも、5個でも同じ0点なんです(;'∀')
いや~野菜10個って言われても、自分も結構「え~なんだっけ?」となるので、なかなか難しいなと思います。
MMSEと長谷川式の違いは?
トリビア的な話になりますが、MMSEと長谷川式の違いは何なのでしょうか?
まずMMSEは海外で広く使われているグローバルスタンダードな検査です。
一方で長谷川式は、”長谷川”という名前から推測できるように、日本人の長谷川先生が開発した検査です。
長谷川式は、口頭の質問だけですべて検査できるので、より簡単にできるという特徴があり、日本ではこちらが普及しているようです。
一方のMMSEは、記憶以外に文章を書いたり、図形を描いたりする検査があるため、手間はかかりますが、記憶以外の要素を測定できるという特徴があります。
MMSEも長谷川式もスクリーニング検査である!というのが重要
MMSEも長谷川式も、スクリーニング検査であるため、
基準を下回ったから即認知症と診断というわけではありません。
記憶力は、その時の緊張具合や体調によっても左右されますよね。
ですので、あくまでもMMSEや長谷川式の目的は「認知症かもしれない」人を見つけて、より詳しい検査につなげるという点にあります。
よく癌検診で腫瘍マーカーを血液検査でチェックしたりしますが、腫瘍マーカーが基準を超えているから、「即あなたは癌です」なんてことにはならないのと同じ感じです。
最後に国試問題を簡単に解説!
認知症が疑われる検査で、聞くべき質問は何か?という問題でしたね。
これは、完全知識問題なので、知ってないと解けない問題となります(^^;)
各選択肢を見ていきましょう。
a 「よく眠れますか」
b 「片足で立ってください」
⇒これは、脳や耳のバランス感覚を担う部分が障害されていないかを確認する質問なので誤りです。
c 「夜トイレに何回行きますか」
⇒これは夜間頻尿が疑われる患者さんに聞く質問ですね。
d 「100から7を順番に引いてください」
⇒これが正解です。計算能力を問う質もで、長谷川式やMMSEに含まれる質問です。
ちなみに、自分は暗算が苦手なので、「100ひく7は93で、93ひく7はなんだっけ・・・???」となっちゃいます(^^;)
逆にそろばんをやっていた高齢の方はスラスラ言えたりしますね。
e 「最近死にたいと思ったことはありませんか」
⇒これはうつ病で聞く質問ですね。
以上、最後までお読みいただきありがとうございました!
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