統合失調症の治療薬について 医師国家試験2020年度 114D60解説
20歳の男性。異常な言動を心配した両親に伴われて受診した。2年前に大学へ入学してからアパートで1人暮らしをしていた。1か月前に体調が優れないと言って実家に帰り、その後はほとんど自室に閉じこもって過ごしていた。1週前から「テレビで自分のことが毎日流れている」、「テレビの出演者が自分にだけわかるサインを送ってくる」、「周りの人が自分の悪口を言っている」と訴え、夜間に隣の家に向かって大声を出すなどの行動がみられるようになったという。このため両親に伴われ精神科を受診した。診察中は表情が乏しく、視線を合わせようとしない。問診に対しては小声で短く答える。大学入学以前は、発達上の問題や適応上の問題はなかった。血液検査、頭部MRI及び脳波検査に異常は認めない。
治療薬として適切なのはどれか。
a イミプラミン
b 炭酸リチウム
c フェニトイン
d リスペリドン
e カルバマゼピン
統合失調症についての問題ですね。
統合失調症は、脳内のドパミンという神経伝達物質に関係する脳機能の異常が原因として、感情・思考・自我・知覚など様々な精神機能に異常をきたす病気とされます。
なかなか一言で表すのが難しい病気ですが、個人的には参考書に書かれていた「統合失調症=自我の障害」という説明の仕方がしっくりしています。
本来であれば、人間は自分自身の自我しかないのですが、統合失調症ではもう一人の自分がいて、そこに操られているという感じでしょうか?(あくまでもイメージの話です。)
症状は多彩なのですが、自我の異常の例としては、させられ体験というものですね。
自分の行動や考えが誰かに操られている感じがするというものです。
他にも「幻覚」は有名ですよね。
1週前から「テレビで自分のことが毎日流れている」、「テレビの出演者が自分にだけわかるサインを送ってくる」、「周りの人が自分の悪口を言っている」と訴え、夜間に隣の家に向かって大声を出すなどの行動がみられるようになったという。
今回の問題でも、これらが幻覚に該当しますよね。統合失調症では幻覚の中でも特に幻聴が特徴的とされます。以前にも書きましたが「お前はダメだ。」的な自己の行為を批判する幻聴が聞こえるらしく、これは本当につらいですよね。
普通の人間なら、何か失敗して怒られたり悪口を言われただけで、数日引きずってしまうなんてこともあるのに、四六時中罵倒されるとなると心も滅入ってしまいますよね。
統合失調症の治療薬には定型と非定型がある!
さて、そんな統合失調の治療薬はどれか?を聞いている問題です。
正解は、非定型抗精神病薬の「選択肢d リスペリドン」が正解になります。
統合失調症の薬には、定型と非定型があるとされます。
・非定型抗精神病薬…リスペリドール、オランザピン
これらの違いは何でしょうか?
統合失調症の幻覚などの陽性と言われる症状は主にドパミンが関与しています。一方で、感情や意欲の低下といった陰性という症状には、うつ病にも関与するセロトニンが関与しているとされます。
それで、非常にわかりやすく言うと、定型というのはドパミンのみを阻害する薬です。ドパミンのみを阻害すると陽性症状(幻聴)には非常に効果があるのですが、神経伝達のバランスがくずれて、逆に陰性症状が悪化するという副作用があります。
そこで、開発されたのが、非定型と呼ばれる薬です。こちらはドパミンだけでなく、セロトニンも阻害します。その結果、非定型抗精神病薬では陽性症状だけでなく陰性症状もセットで改善できるという優れものなわけです。
以上が解説部分になります。
では統合失調症の診断はどのようになされるのでしょうか?
経験に頼った診断方法から現在はDSM5という診断基準を用いるのがスタンダードに
精神科の診断は、昔は伝統的な診断法と言われる「医師が患者さんの面接をして、そこから得られる情報をもとに下す」という方法が一般的でした。
しかし、これでは同じ患者さんを複数のドクターが診察した場合に、そろぞれの医師の主観に左右されるというデメリットがあり、「そんな主観的な方法でいいんかい!?」という批判があったようです。
その解決策として「操作的診断」という手法が導入されました。精神科に興味がある方ならDSMというキーワードは聞いたことがあるのではないでしょうか?あれのことです。
簡単に言うとDSMというのは、アメリカの精神科学会が発表している診断マニュアルみたいなものです。
ちなみに正式名称は 「精神疾患の診断統計マニュアル Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders 」なので、略してDSMです。
最新版は2013年に発表されたDSM5ですね。
統合失調症を例にとるとこんな感じですね。
統合失調症の診断基準(DSM-5)
- 以下のうち2つ(またはそれ以上)、おのおのが1カ月間(または治療が成功した際はより短い期間)ほとんどいつも存在する。これらのうち少なくともひとつは(1)か(2)か(3)である。
- 妄想
- 幻覚
- まとまりのない発語(例:頻繁な脱線または滅裂)
- ひどくまとまりのない、または緊張病性の行動
- 陰性症状(すなわち感情の平板化、意欲欠如)
- 以下略
このDSMでは、患者さんにA、B、Cの症状があるから診断基準を満たすので統合失調症と診断できる!という感じで、伝統的手法よりは客観的性が高くなったと言われています。
ただ、この方法が万全かと言われたらそうでもないようです。
例えば、上に示した統合失調症の診断基準に「妄想がある」ことが含まれています。しかし、どのレベルから「妄想がある」と線引きできるのでしょうか?
結局この線引きが精神科医によって変わってくるのでは?という批判があるわけです。高血圧とか体の病気なら血圧が140/90mmHg以上で診断されるなど客観性の高い指標があるのですが、この辺は精神科疾患の難しい所ですよね。
ということで、近年注目されているのがAI(人工知能)です!
AIで精神科の病気が診断される日が来る!?
今回紹介したいのは、こちらの記事の内容です。
この記事を読む限り、MRIの脳画像を用いて実験した結果、最高で70%の確率で統合失調症患者の脳画像を適切に識別できたとされていますね。
特にこれまでの研究では、ある画像をAIに見せたときに「Aという病気である」か「Aという病気ではない」の二択で行われてきたようですが、今回の研究は「統合失調症」「発達障害」「健常」の3択の中から、「統合失調症」という識別を行わせたということなので、より実践に近づいた印象がありますね。
もちろん、実験段階なのですぐに実際の現場で活用という形にならないと思いますが、将来的には精神科に行ったらまず脳の画像を撮影するなんて時代が来るかもしれませんねー。
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おまけに、残りの選択肢の解説です。
a イミプラミン →これは三環系と呼ばれる昔ながらの抗うつ薬ですね。
b 炭酸リチウム →これは双極性障害に用いられる気分安定薬ですね。スマホの充電器に用いられているリチウムが、気分安定に効くとは不思議ですよね~。
c フェニトイン →これは抗てんかん薬ですね。
e カルバマゼピン →これも抗てんかん薬ですね。